青空の下の机

旅をして、写真を撮って、生まれた想いを小説に籠める。

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掌編小説:ボトルシップ

小さい頃に一度だけ、ボトルシップを作ったことがある。
小学校の夏休み。私は自由研究を何にしようか決めかねないままお盆を迎えていた。
お爺ちゃんの家にいったとき、ある日お爺ちゃんは私に何か板のようなものと、膨らみの大きいビンを渡した。板には切り込みがあって手で簡単に外せるようになっていた。
「お前、暇ならこれでも作ってみろ」
お爺ちゃんはそれっきり何も喋らず、縁側に座り込んで新聞とにらみあっていた。
渡されたとき、これがなんなのか分からなかった。ボトルシップなんて馴染みがなかったし、工作には興味がないから、最初はこっそりと捨てようかなとか考えていた。
だけど、これを作れば夏休みの自由研究になるんじゃないかと閃いて、手をつけることにした。
そう、甘く考えていた。
ピンセットの扱いに慣れるまでひーひー弱音を吐いた。指よりも小さな部品を組み立てる、繊細な作業に神経を衰弱させた。夏の暑さも相重なって滝のような汗をかいた。簡単ではないことは分かっていたが、ここまで辛いものだとも思っていなかった。
ふと顔をあげると、縁側からお爺ちゃんがこちらの様子を伺っていた。
「調子はどうだ」
そう告げると再び視線を新聞のほうにむけた。
お爺ちゃんはいつもこんな感じだった。いつも私の返事を待ってはくれない。伝えるだけ伝えたら、後は自分の世界に籠ってしまう。
でもそんなお爺ちゃんを別段嫌いになることもなかった。

「できた……」
少し歪になった船が、ボトルの中に佇んでいる。水だと明らかに船底から浸水しそうだったから代わりに砂を敷き詰めた。砂漠に取り残された船のような、幻想的な風景がボトルの中に写し出されていた。
「楽しめたか」
気がつくと、お爺ちゃんが脇からボトルシップを覗きこんでいた。まじまじと見られているようで少し気恥ずかしかった。
「うん。難しかったけど……」
「……そうか」
そう言うと、そっと私の頭に手をおいた。初めてのことに何をされたのか、一瞬気づかなかった。
お爺ちゃんの手のひらから、ほのかな温もりが伝わった。

あれから何年たったときだろうか。お爺ちゃんは急に倒れこんで入院することになった。
医者と親の会話から、お爺ちゃんはもう長くはないことを悟った。
お爺ちゃんはずっと目をつぶっていた。それが不思議と違和感を感じず、前からずっと眠っていたかのように感じられた。

親が言うには、昔のお爺ちゃんはこんなに無口じゃなかったらしい。むしろ社交的で明るい性格だったそうだ。
だけど年を取り、私のお婆ちゃん、自分の妻に先立たれてから、突然自分の殻に籠るようになったらしい。まるで誰とも関わりたくないように。お爺ちゃんは口を閉ざしていた。

お爺ちゃんはそのまま、目を開けることはなかった。
お爺ちゃんが私に返事をしてくれたのはあの時だけだった。特別な出来事ではないけど、私の心に深く印象づけられた。
葬儀の後、私は部屋の押し入れを漁った。中から埃を被ったボトルがでてきた。
そっと埃を拭うと、そこにはあの時と変わらない姿があった。水を入れなかったおかげなのか、船は朽ちることなくビンの中に映えていた。
  1. 2015/03/11(水) 18:58:07|
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