青空の下の机

旅をして、写真を撮って、生まれた想いを小説に籠める。

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掌編小説:人の糧

 夏のある日、川沿いに散歩をしていたときのことだった。アスファルトで舗装された川の淵に中学生程度の少年が五人、輪になって屈んでいた。最初は気にも留めなかったが少年らの隙間から思いもよらない物体が見えたためつい私も歩みを止めて注視した。
 少年がうずくまっていた。肘や膝には赤黒い染みが点在し、立ち上がろうと踏ん張る手足はわずかに震えていた。
「いじめか……」
 私はため息を吐いた。今昔永遠に絶えることのない社会問題を目前に、他人事と思えない緊張と胸にこみ上げる不快を感じた。
 こんなことはやめさせなければならない、そう思い少年らの元に歩み寄ったときに、ある疑問が生じた。
 いじめられている体格をみたところ、他五人と同じ年齢かそれ以上だろう。やたら肩幅は広く、横たわっているが身長も低いとは考えられない。腕はがっしりとしている。かといって太っているわけではない。少し筋肉質でいじめでついたであろう傷を除けばいたって健康的だ。容姿も悪いところは見当たらない。健全な好青年、といった印象だった。
 なぜこんな少年がいじめを受けているのだろうか? いじめとは無縁そうな彼がどうしてこんな痛々しい姿になってしまったのだろうか? そんなことが頭の中をよぎる。
 今はそれよりも彼を救ってあげなければ。緩んだ歩みを整え直し、いじめている少年の一人の肩に触れる。
「何をしてるんだ? こんなことしてはいけないよ」
 私がそう伝えると、彼らは困惑した表情を浮かべた。まるで自分が何をしているのか分かっていないかのように。そして集団のうちの一人が堂々と私に声を挙げた。
「こいつが学校で俺の財布を盗もうとしたんだ! それなのにこいつは『自分は盗んでない』とか抜かすんだ! だから許せねえ! この泥棒!!」
 彼の泥棒という言葉に続いて周りの少年も「この泥棒!」と声を荒げる。
 私は彼らを落ち着かせてから詳しい話を求めた。
 どうやら、体育の授業が終わっていじめっ子たちが教室に戻った際、一足先に教室に戻っていた少年が他人のカバンから財布を抜き取ろうとしていたのを目撃したらしい。それを責めると、少年は「確かに最初は魔がさしたけど、落ちていた財布を持ち主のカバンに戻そうとしていただけ。何も盗んではいない」と応えたそうだ。
 それからというもの、少年たちは彼に対して攻撃するようになったのだという。最初は反論をしていたがそのうち何も言い返さなくなったのだとか。
 ここまでを聞いて、私は横たわっている少年を起こして質問した。
「本当に何も盗んでないんだよな?」
 少年は虚ろになりながらも首を縦に振った。
「なんで途中から何も言い返さなくなったんだ?」
「何をいっても聞いてくれないから……。それどころか、悪いように捉えられてかえって嫌な目にあうから」
 私は口を閉ざしてしまった。もちろん彼が盗んだかどうかなんて知る由はない。しかしただ分かることはあった。
 それはいじめている少年らはあたかも自分たちの行いが正しいと判断していることだ。彼らは勘違いをしていた。自分たちが正しい立場にいるから何をしても許されるんだと……
 私はまた、大きなため息を吐く。
「理由がなんであろうと、こんなことはもうしてはいけない。傷つけられたからといって相手を傷つける理由なんてどこにもないんだよ」
 それだけを告げ、いじめられっ子の服についた塵と埃を払ってあげた。

 それからしばらくした後、そろそろ家へと帰ろうかと思いはじめたころだ。ふと足元に視線をやると、数匹の蟻がバラバラになった蜘蛛を巣へ運ぼうとしていた。
 蜘蛛は蟻なんかを襲ったりはしない。しかし、蟻たちは平然と巣から落ちて弱った蜘蛛に襲い掛かる。
 それは彼らにとって当然の振る舞いのため。彼らにとって生きる糧となるのだから――


以下、あとがき
いじめはいつになってもなくなりません。

それどころか、無視や陰口といった、
本人に罪悪感を抱かせづらい行動が目立つように。

そういうのを見ていると、
いじめの定義をしばしば履き違えているのではないかと思います。
いじめられている立場が不快だと感じた時点で、それはいじめなのに。

いじめの元となる感情を発散させることだけしか、頭が考えられない。
自分のことしか、考えられないのでしょう。
  1. 2015/05/17(日) 15:32:32|
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