青空の下の机

旅をして、写真を撮って、生まれた想いを小説に籠める。

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掌編小説:偽りの鏡

 まだ世界に魔法が存在していたころのお話。万物には魂が宿り、その魂が強いものだけが人との会話を交えることができた。
 ある森の奥に、一つ小さなお城が佇んでいた。そこには若い妃が召使たちとともに過ごしていた。
 妃は鏡を集めるのが趣味で、部屋中に大小さまざまな鏡が飾られている。その中でも彼女は珍しいものを持っていた。喋る大きな鏡で、妃は大層お気に召したらしく、自分の部屋の奥に飾っては毎日のようにこう訊ねていた。
「鏡よ、鏡。世界で一番美しい者は誰だ?」
「――それはお妃様、貴女でございます」
 鏡がそう答えると、妃はご機嫌になった。鏡には妃の姿は映らず、代わりに鏡の魂である淡い炎が映しだされていた。
 このやりとりは毎日毎日、毎朝毎晩、何年も続いたそうだ。
「鏡よ、鏡。世界で一番美しい者は誰だ?」
「――それはお妃様、貴女でございます」
 一語一句違うことなく繰り返される。
 やがて若かった妃はどんどん歳をとり、小皺は増え、お腹は満月のように丸くなり、声はしわ枯れていき、髪は艶を失っていった。
 それでも妃はお気に入りの鏡に向かって問う。
「鏡よ、鏡。世界で一番美しい者は誰だ?」
 すると鏡はこう答える。
「――それはお妃様、貴女でございます」
 そしていつもの様に妃は上機嫌になって、部屋中を踊る。
 ところで、魂を持つ物にも感情が宿る。嬉しいと思うこともあれば、怖いと思うこともある。そして痛みも知ることができる。
 鏡はこのころにはとっくに気付いていた。
あれほど部屋に陳列されていた鏡がどんどん減っていくのを。妃がどんどん歳をとるにつれて、自分の老いを映しだす鏡をぶち壊しているのを。
 或る日は、夜中に蝋燭の焔に照らされた妃の顔が鏡に映しだされて、妃はそれを一瞥するや否や、無言でその鏡を床に投げつけた。
 或る日は、大層不機嫌な様子で部屋から戻られたときに、怒り狂った妃を映しだした鏡を窓から放り投げた。
 それは魂のない鏡からあるものまで。沢山の鏡たちが妃によって壊されていった。唯一強い魂を持ち喋ることのできる鏡は、部屋の奥からそれらの惨劇を見ているしかなかった。
 喋る鏡は幸いなことに妃の姿を映しだすことはできない。代わりに自身の魂が映しだされるだけだ。だから妃が自身の姿を見て、突発的に捨てることはないのだ。
 鏡たちは次第に数を減らしていき、遂に大きな鏡一枚だけとなってしまった。鏡は老婆に成り果てた妃にこう問われる。
「鏡よ、鏡。世界で一番美しい者は誰だ?」
 鏡は答える。妃に殺されないために。死の恐怖から逃れるために。
 例え事実とは反していても、鏡はこう答える他なかった。
「――それはお妃様、貴女でございます」



以下、あとがき
真実というのはときに残酷です。

時には暴力、圧力などでねじ伏せ、真実から身を守ろうとします。

悪いことではないと思います、ただ、

それでも現実が変わる事なんてありませんけどね。
  1. 2015/08/03(月) 12:55:34|
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